ANONYMOUS;CODE 感想(ネタバレあり)

ついに発売されましたね。「シュタインズ・ゲート」などと世界観を共有する科学アドベンチャーシリーズの最新作、「アノニマス・コード」。

完全クリアまでのネタバレを含むのでご注意ください。

 

この作品との出会い

今でも忘れません。2015年の、原作者志倉千代丸さんのツイキャスにて発表されたこの作品。

千代丸さんが「この作品で警鐘バンバン鳴らしまくってやろうと思ってるんですよ!!!!」みたいなことを言ってノリノリで発表されたアノニマス・コードは当時の自分にとって最高のワクワクを与えてくれるものでした。

 

シリーズの世界観を大きく拡張する、縦に世界が連なる概念「世界層」。

主人公の能力「セーブ&ロード」と「ゲームプレイヤーのことをキャラクターが認識しているメタ視点」。

シリーズの中でもかなり遠い未来に挑戦する、2036~38年の様々な問題を描くSF。

 

世界層の設定は、自分が普段うっすら疑問に感じていた「世界の中にある仮想世界の中にある仮想世界ってどんなんだろう」って疑問を具現化してくれたようにも感じました。

 

そして、主人公自身がセーブ&ロードの能力を有していて、プレイヤーとの意思疎通を図るのも素晴らしい。

しかもそれが物語終盤のどんでん返し要素ではなく、序盤から使う基本ギミックなのも凄い。

つまり、メタネタでプレイヤーを驚かせようと思ったら、単純に「プレイヤーを認識している」とか「主人公もセーブやロードができる」だけでは不可能で、もっと凄い何かを提示しなければならない。

この作品は「メタ」という概念に対して新しい境地を見せてくれるんじゃないか、そんな気がしていました。

 

そして、2015年から世界も僕自身も大きく変わった2022年、沢山のファンや開発チームの悲喜交々を乗り越えてついに本作は発売されました。

 

シナリオ面

実在する様々な科学、ITネタ、陰謀論や都市伝説の独自解釈が絶妙に絡み合ういつもの千代丸節は相変わらず最高でした。

過去シリーズからの設定やキャラクターの繋がりも素晴らしく、考察のしがいがあります。

 

しかし、いわゆる「個別ルート」が無いのは正直ヤバいと思います。

メインのシナリオと、終盤で分岐するトゥルーがあって合計プレイ時間は20時間程度でしょうか。

あれ、バンビルートは!?ノンノルートは!?ロザリオルートは!?クロスもオズのおっさんも掘り下げもっと欲しいよ????ウインドくんに至っては見せ場少ししかなかったよ?

てか「HOW'S IT GOING TO END?」はなんだったの?モモのARタトゥーは誰が仕込んだの?終盤のブラックナイト衛星とかアレシボメッセージの回収唐突じゃない?あと(ry

「考察の余地が残っている」というよりは「消化不良」の側面が大きいかなーって感じです。

 

これだけの期間をかけた大作ですから、40~50時間はあって当然だと思っていました。

ノーマルエンドをクリアした段階で「ここからが本番だな~頑張るぞ!!!!!」とか思っていたので正直ショックでした。

分岐を作るのが難しいなら、時系列は一本道のまま各キャラにフォーカスした話や全員で問題に立ち向かう話をやってほしかったです。

 

「世界層」設定は本作ではさほど活かしきれていなかった気もします。

縦に複数世界が連なっているからこその面白さが事前の予想を超えてこなかったというか。

「物語は“世界線”から“世界層”へ」とかプロモーションしてた割にはというか。

 

セーブ&ロードの活用法も、プロモーションや原作者ツイキャスで語られてた以上の驚きは無かったかも。

ツイキャスで時々語られてた他の色んな設定も回収されなかったの多いなぁ……。

 

基本的にはめちゃくちゃよくできてるんですよね。物語に一本筋は通っているし、2036~38年に想定される科学技術や事件、キャラクター、シナリオギミックも全部最高に魅力的。

今はこのディテールの素晴らしさを受け入れる余裕がないんです。多分何年もしたら今よりずっと好きになっています。

 

ゲームシステム面

まず、新システムのハッキングトリガー。

「ノベルゲームってほぼテキスト読んでるだけだからゲームじゃないよね」みたいな人にぜひやってほしい素晴らしいシステムです。

物語を読みながら「ここでセーブやロードした方がいいんじゃないか?」という意識がプレイヤーに生じます。

これはデジタルSFとして優れていると同時に、テキストADVにおいて緊張感や、

インタラクティビティ(ゲーム側とプレイヤー側のやり取りの双方向性)を感じさせる手法としても極めて優れています。

 

設定されたトリガー提示場面がユーザーの意識と噛み合わないこともある点は玉に瑕ですが、これこそアノコの醍醐味と言えます。

 

UIも面白いですね。テキストウィンドウなどがキャラクターのBMIで映している視界の一部という設定や、ARの設定がある場面でBMIをオフにするとAR表示も消えるのは面白い(反面、ARのこのギミックを上手く活かしたシーンはあまりなかったなという印象もあります)。

 

3人称視点のシーンでバックログが表示できませんでしたが、これはバックログBMIの機能であるため「誰かのBMI表示を映した状態じゃないとバックログも表示できないよ」ということなのでしょう。

不親切とも言えますが、設定に忠実で尖ってて面白いとも言えます。個人的には好きです。

 

マンガトリガーも、差分があることで「ループにより物語がどう変わったのか」を視覚的に表現できていて好きでした。

見せ場のアクション性を強調する仕組みでもあります。

 

本作に限らず、科学アドベンチャーシリーズはいつも新しいゲームシステム、表現を模索する挑戦的な姿勢が良いんですよね。

開発の困難さにも直結しますが、ぜひこれからも続けていただきたいです。

 

総評

総じて「とても良作だけど7年待ったほどではないかな~」くらいの感想でした。

 

プロモーションが「最高到達点」「集大成」みたいな言葉を使っていて、「科学アドベンチャーシリーズ最高傑作を作ってやるぜ!」くらいの意気込みを感じていたんですけど。

「良かったけど、集大成ってほどではなくない?」

みたいな。特別大きな不満もないけど、心から満足はできていないみたいな。

 

今後のシリーズについて&まとめ

カオスヘッドシュタインズゲート以降のシリーズには、色んな紆余曲折がありました。

 

シュタゲブームの影響もあり初動は売れたものの、シナリオ評価が芳しくなかったロボティクスノーツ(アニメや各媒体の補完シナリオも合わせるとめっちゃ良い作品ですけどね)。

初期のXbox専売、アニメの不発等によってシュタゲと同等のシナリオ評価を得ながらもファンを増やしきれなかったカオスチャイルド(ゲームには年齢制限もあり万人向けの作風でもないですが)。

アニメは一定の評価を得るも、小説やゲームが中途半端な状態で終わり、ゲームのパッチ配布が予告されるも手付かずのオカルティックナイン

 

「良い作品なのに惜しいんだよな~」ということが個人的に多い科学アドベンチャーシリーズ。

 

ただ、「惜しいな~」と思うことはあっても、「そもそも作品が面白くなかった」「魅力を感じなかった」みたいに感じる作品は1つもありませんでした。

シュタゲのアニメ再放送時のサプライズや、シュタゲゼロのアニメが原作以上の仕上がりになるなど、「すげー!」と思わされることもまだまだ多いシリーズです。

 

もちろんアノコ自体も、今後アニメ化や完全版、漫画などのメディアミックスで化ける可能性は大きく残されています。

 

科学アドベンチャーシリーズ、これからも大好きですし応援しています。

アノコそのものも大好きです。今はショックもあるけど、やっぱり大好きです。

 

開発陣の皆さん、7年間お疲れ様でした。過酷な試行錯誤の日々に心から敬意を表します。

色々ごちゃごちゃ言ってしまいました(本当にすみません)が、大きすぎた期待の反動があったというだけで、この作品は間違いなく既に傑作です。沢山のドキドキやワクワクや感動がありました。本当にありがとうございました。

 

そして、この感想を読んでくださった方もありがとうございました。