劇場版FateHF感想をすこしだけ

(3章までを含むネタバレがあります)

2014年のFateシリーズ関連プロジェクト発表会。ニコニコ生放送で見ていました。
その最後に出たPVの演出で「聖杯戦争が反転」し、
多くのマスターが「──まさか、」と予感したあの瞬間が忘れられないのですが、もうあれから6年ですか。はやいなぁ。
そして今終局を乗り越えて、春に至った多くのマスターの気持ちはどんなものでしょう。
僕にも色んな思い出がありますが、とりあえず作品の感想をここに残しておこうと思います。

作品の構成要素全てが狂気的な完成度でした。
ufotableらしい、アニメーションの歴史自体を更新していくかのような、極端にハイエンドな映像美、音響。
画面全体にまるで影が張り付いているかのような空気感、緊張感。
原作の意図を原作以上に掬い上げた、大胆な再解釈、再構築。
それらを全て丁寧に組み上げ、「ゲーム」ではなく「アニメーション」の力を精一杯使って、原典の再誕は達成されました。

ここまでなんらかの創作物に対して「完璧だ」と思えることはほとんど無いのですが、事実完璧だったので……なんだったんだあれ……。

もちろん、(いくら劇場版が3つもあるとはいえ)尺の限界はありますし、選択肢による分岐もない分、思い入れのあるシーンが短かったり、あるいはカットされていたりする部分もありました。
しかし、そうしたカットにも一つ一つに考え抜かれた意味がありました。
セリフが減っていたり、地の文がそもそもなかったとしても、キャラクターの表情や小道具、背景など、様々な「映像」の力で、きちんとヘブンズフィールという物語は伝わっていたと思います。

一つだけ欲を言わせてもらうなら、原作BGMからのアレンジはもうちょい欲しかったです。
ですが、梶浦さんの中で完結した、独自のグルーヴもまた美しいもので。
主題歌「花の唄」「I beg you」「春はゆく」の歌詞、メロディ、Aimerさんの歌声は、桜の心情を極めて精緻に描破しています。
これらの楽曲のアレンジもBGMに丁寧に編み込まれていましたが、僕の心を最も揺さぶったのは、UBWでのエンディング曲「believe」のアレンジでした(これも梶浦さん作)。

まず、2章で士郎&桜のコンビと凜&アーチャーのコンビがすれ違うシーン。
士郎は「万人を守る正義の味方」ではなく「桜だけの正義の味方」になり、UBWルートまでとは決定的に異なる道を歩むことになりますが、まさかのここで「believe」アレンジ。
タイトルは「what he has believed」。これまで信じてきたものとは違う道を歩むのです。
映像では、2組を隔てる道路の白線が、その決定的な分岐、決別を示唆しています。

そして3章。
いや、、、Nine Bullet Revolver(士郎vsバーサーカー)でまさかのまた「believe」アレンジ流すの正気か!!!??????!!!!!!
!!!!!!!
自分とは違う自分を、とても清々しい表情で送り出すあの男の姿が今も忘れられません。
そして想像の遥か上をゆく、待望の「エミヤ」アレンジ。
どんだけ畳み掛けてくんねん。

全章全シーンの感想書いてたらなんか本とか作れそうな勢いなので無理やり総括しますと。

この作品に向かい合う行為はもはや、「観賞」というより「戦闘」と呼んだ方が的確であり、見る者の体力と感情を根こそぎ奪っていきます。
そして劇場を後にしたとき、きっと心の奥底まで届いた、温かい何かが残っていることと思います。
とんでもないものを見てしまったなぁ、生きててよかったなぁ。


振り返ってみればこのプロジェクトは、スマホアプリでFateルート、TVアニメでUBW、劇場版でHFを描く、Fate/stay nightのリブートプロジェクトでした。
同時に、2006年のDEEN版TVアニメを含めれば、stay night全ルートのアニメ化の完了をも意味しています。
Fate/stay nightを描くこと」がいよいよ完遂されたというこの感覚。
ファンにとっての歴史はもちろん、
ヴィジュアルノベル史、アニメーション史、伝奇作品史にとってもひとつの大きな区切りでしょう。
スタッフのみなさん、一緒に作品を楽しんでくれたファン仲間の皆さん、色々お疲れ様でした。
そして何より、ありがとうございました。