【WHITE ALBUM2 考察】「想いの認識の前提」を裏返す手法(後編)

この記事は「後編」です。前編はこちら↓

【WHITE ALBUM2】「想いの認識の前提」を裏返す手法(前編) - Setsuna Kawaii

 

 

「想いの認識の前提を裏返す」手法 ~雪菜の場合~

かずさの場合同様、原作ゲームから見て後発のアニメ版ではより伝わりやすくなるよう調整がなされていますので、アニメ版もセットで語っていきます。(後述しますが雪菜の場合、そもそも原作の時点では本記事で語る表現意図がなかった可能性があります)

やや複雑ではありますが、「隠されていた想いの深さをインパクトのある方法で表出させ印象づけている」点はかずさと同じです。

「奥底にある想いの深さ」の表現、ICで雪菜はどうだったかというと…

 

ユーザーから雪菜への認識の変遷(だいたい)

冒頭:茶髪ツーサイドアップ美少女。優しい。かわいい。

序盤:優しい。あざとい。かわいい。春希への好意を隠さない。

中盤:優しい。でも色々根暗(笑)な部分もある。春希への好意はやっぱり隠さない。

 

ここまでの認識で重要なのは、「春希への好意を隠していない」点です。周囲に徹底的に隠していたかずさとは真逆です。

つまり「隠していた想いを後で爆発させる」という、かずさと同じ手法は使えない…気がしますが、実は同じ手法を遠回しに使っています。

まず、ユーザーはこの時点で、「雪菜は春希に恋愛感情がある」ことを認識していますが、終盤にそれは引っかき回されます。

 

終盤:かずさに会いに空港に向かう電車内。雪菜が学園祭の日、春希に告白した理由を打ち明ける。

自分が春希とどうしても恋人になりたかったからではなく、かずさと春希が恋人になれば自分1人が置き去りにされてしまうのでそれを避けるため、バランスを取るため、3人でいるためだという。

 

ここで「雪菜の抱く“好き”」は難しいものになります。春希は、彼女が彼をかばう目的で言っていることを理解していますが、ユーザーは撹乱されます。

雪菜は“3人でいること”を、告白の前にも後にもしきりに口にします。春希のことが好きなのは事実なのでしょうが、圧倒的な恋心が示されたかずさに比べてはどうなのか。

 

しかし、ICの最後の最後。

かずさを見つけた春希は一直線にかずさの元へ、そのまま雪菜の眼前でキス(ひどい)。

雪菜は涙を流します。映される彼女の足元。1滴1滴、落ちてくる雫。ふたたび挿入されている「After All~綴る想い~」。

そりゃ、恋人が自分の眼前で別の相手とキスしてる様を見せつけられたら泣くでしょう。

ただ、これだけでは雪菜の想いが伝わりきっていなかったのか、アニメ版ではここの描写が大きく変わっています。

彼女は、さっき自分でついた「嘘」を否定します(モノローグであり、春希達には聞こえていません)。

「そんなわけ、ないじゃない……っ」と。

3人でいたかったのは、事実。

けれど、その前に、告白した想いの大前提は、「春希くんのことが大好きだから」。

 

雪菜の想いも、やはりその根底にあったのは、どこまでもまっすぐな恋心だったのです。

 

 

 

ここまでをまとめます。

雪菜の場合は、「恋愛感情はあらかじめユーザーに強く示されている」という前提がかずさと異なる点でした。

次に、「3人」というファクターが用いられたことでユーザーの認識は真実からずれます。

そして、最後の最後に「“3人”とは関係のない、圧倒的な恋愛感情」を示すことで、やはり彼女にも決してかずさに負けない純粋で強い恋心があることを表現したのです。

 

 

 

※僕は、かずさの「ユーザーからの認識の流れ」については、概ね全て作者サイドの意図通りなのではないかと考えています。

しかし雪菜のものについては、「全てが意図通りではなく、結果的にこうなった」面もあると思います。

インタビュー等によると、作者サイドの想定とは原作発売時点のユーザーの認識が少しずれており、「雪菜は“3人でいること”だけを重視しており、恋愛感情は大きくない」と思わせることはあまり考えていなかったようです。

アニメ版では、原作の反応を受け、一時的にそう解釈されることを前提として、そこから最後に「そんなわけ、」を入れることで雪菜の感情の再定義を試みています。

これが結果的に「隠していた想いの大きさを表現した」ことになったのだと思います。

 

 

 

 

 

さて、想いを汲み取るのが難しかったりもする雪菜ですが、僕はそんなところも彼女の大きな魅力であると感じています。

後編は以上です。

 

お読みいただきありがとうございました!

下におまけがあります。雪菜について少し。個人的にはおまけが本編です。ICより後の話(2020年4月現在、未アニメ化部分)に触れます。よければどうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

「想いの認識の前提を裏返す」手法 ~codaかずさルート雪菜の場合~

これまでの話は超簡単に言ってしまうと、「え、このヒロインって実はこんなに主人公を想ってくれていたのか…泣ける…好き…」と感じてもらうために、WHITE ALBUM2の序章とそれのアニメ版ではどんな手法が使われたか、というものでした。

 

ただ、個人的に一番「こんなに想ってくれていたんだ」と感じたのは、最終章かずさルートプレイの何周目かでの出来事でした。

雪菜は、春希と行った最初のカラオケ(アニメでは2話)のことを、「初めてのデート」と表現します。このセリフ、「今思えばあれもデートみたいなものだったよね、じゃああれが初めてのデートだったね」という意味かと思っていましたが、その考えは覆されます。

 

 

まず、僕はそれまで、あれをデートだと感じたことがありませんでした。

なぜなら当時、春希と雪菜は出会ったばかりだからです。もちろん付き合ってなどいません。それどころか、まだ友達としての関係性すらろくに築かれていません。

 

ただ、自身のことを“説教してくれて”、同じ「森川由綺のWHITE ALBUM」が好きで、正体も“見抜いてくれた”春希に雪菜は好意を抱きます(この時点で恋愛感情まであったかはあいまいです)。

そんな彼に、最後の秘密を自分から教えるために彼女はカラオケに誘います。

さらに、アニメ2話を見返してみれば、彼女はカラオケの直前に、香水も髪のセットもその他オシャレも全力でやっていました。鏡の前で意気込んでいました。「友達と行くのでもオシャレくらいするでしょ」とも思いますが、当時の彼女が他人を誘うこと自体がまず異常なのです。

自分から人と関わることはやめていた雪菜が、恋愛にトラウマのあるはずの雪菜が、わざわざ異性を呼び出し、必死に隠していたはずの秘密を打ち明けます。しかもその前、アニメ1話の時点で、本来誰にも見せないような照れの顔を見せてくれています。

そっか、

あれは正真正銘、雪菜にとって初めてのデートだったんだ。

いや、わざわざ最後に「これにて小木曽雪菜の秘密は~」みたいなことまで言われておいて、これをきちんと認識していなかった自分が恥ずかしいです。友達相手には死んでも言わないセリフですよねこれ。

 

雪菜はよく「いつ恋愛感情を抱いたのか分かりづらい」と言われます。僕もそう思います。「友情」が「恋愛感情」にどこで切り替わったのかが不透明なのです。

でも今の僕は、「きっと雪菜は、僕(ら)が思うよりずっと早くに、恋をしてたんだな」と考えています。少なくとも、カラオケに招かれる頃には、異性として強く意識してくれていたのだから。

 

この話はもちろん本記事の前編、後編と関係があります。つまり「自分が思っていたよりも遥かに大きな想いを、遥かに前から抱いてくれていたことがわかって感動した」のです。

ああ、君を好きになってよかった。

 

改めて、お読みいただきありがとうございました!!!